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むかしむかし~本の感想⑮

2002年~2004年ごろに書いていた本の感想

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家族狩り 1~5部 天童荒太 新潮社文庫 (¥476~¥667)
ついに茨城県でも起こってしまった家族をめぐる事件。自分にとっても身近な土浦と水戸の事件で、子どもたちの通う学校でも事件の関係者と近い人が多く、起こってしまった事件の波を感じないではいられない。

子どもによる家族惨殺事件の真相を探る5部作は、このような事件が起こったときに訳知り顔でコメントするTVの出演者よりずっとずっと真実に近いものを伝えているに違いない。閉ざされた家族と言う密室の中で、あるいは、社会の中で孤立した家族の中に何が起こっていて、その当事者たちはいったい何を感じているのか、これほどリアルに書いた作品は初めてではないだろうか。ある意味事件を追ったルポよりも事実に近い気がする。

肯定的に受け入れられない子どものどうしようもない行き場のない気持ちも、親たちの当惑も、何とかしたいと動く周りの人々の気持ちも、それぞれの思いがしみるように伝わってくる。登場人物の語る言葉一言一言がまるで自分が発した言葉のように思えるくらいリアルである。

それゆえ、読み進むのはしんどい。解るがゆえに、この先にあるのは闇だけのような気がしてきて、読み続けるのが辛くなる。それでも、第5部のタイトル「まだ遠い光」を求めて読み続ける、考え続けることが「まだ遠い光」に近づく唯一の方法だから。

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