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さざめく空

田起こしがはじまると、掘り返された土の香りで春を感じる。町では感じられない空気の香り。そして、ゴールデンウイークの朝は農機具の音ではじまる。田んぼの水はお風呂の水のようにすぐにいっぱいになるわけじゃないのを常陸太田に来て初めて知った。大きな田んぼを水でいっぱいにするには何日もかかる。取水口近くの土の色がじわじわと黒っぽくなっていくのに数日、そして全体が黒土色に変わったあと、ぴかぴかに光る水面が現れる。

長四角に区切られた田んぼが、ひとつまたひとつと色がかわり、光る水面に変化していくと、そこだけ空が2倍になっていく。四角く額の形に切りとられた鏡のような空があちこちに現れ、ほんとうの空とさかさまの空が仲良く向き合っている。

田植えが始まり、苗が大きくなるにしたがって、さかさまの空は隠れてしまうから、二つの空はほんのひとときの景色でしかなく、私は毎日洗濯物を干しながら、向かい合う本当の空とさざめく空を眺め、変わっていく景色を胸の中に留めるように深呼吸をする。

田んぼに人の姿を見かけるようになると同時に、鳥のさえずりがうるさいほど聞こえ始め、水が入ると即かえるの大合唱が始まる、田んぼがあってこその風景。幼稚園バスの送り迎えの道すがら、毎年出会った大きなかえるは今年もでてきてるかなぁ。

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