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むかしむかし~映画の感想㉖

2002年ごろ書いていた映画の感想

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至福のとき

/ 主演ドン・ジエ 監督 チャン・イーモウ(予告編はこちら

「あの子を探して」「初恋の来た道」の監督チャン・イーモウが贈る『しあわせ3部作の最終章』。いい映画でした。「赤いコーリャン」を書いた莫言の原作。北京の大都会で起こる御伽噺風のストーリー。盲目の身よりのない娘が、初めて人から大切にされることによって、一人で生きていく勇気を得ることができ、旅立つまでの物語。

「おとぎ話」と言うのは、登場人物があまりにも善意の塊のようだから…。自分たち自身、明日のわが身も知れない無職の人たちが、かわいそうな娘を思ってあれこれ面倒を見たりする、その様子が現実離れして見えるから。でも、その現実離れの御伽噺のようなストーリーで監督が伝えてくるのは「人から大切にされる」感覚がどれほど人を勇気づけるかという真実。

ラストシーンで、親切にしてくれた人たちの元を去り、杖をこんこんと鳴らしながら一人大都会の中を歩いていく少女の姿が映し出される。その画面の下半分はなぜか黒く塗りつぶされている。盲目の少女の世界をそのまま画面にしてあるように思う。が、世界が暗闇なのは少女にとってだけではない、とその画面を見ながら思った。

目が見える私たちは、世界を「目の当たり」に見ていると思ってはいるが、本当の所は「見えていない」と言う点で盲目の少女と同じかも知れない、いやそれ以上に見えていないのかもしれない。人の心や感情の動きとその人が発する言葉が裏腹なのは言うまでもないこと。映画のキャッチ「青い空は見えないけれど 輝く星も見えないけれど 私はあなたの心がみえます」、そのことを半分黒い画面で監督は伝えたかったのではないだろうか。

盲目の少女が一人で生きていくことを選んだラストシーンで、本当にそれでいいのかと心配になってしまったが、「暗闇の世界」を生きているのは彼女も私も同じだと気づいた時、「心配する」視点のあやうさにも気がついた。あの少女も私も同じ暗闇を歩いている、それならば彼女のように明るく笑いながら生きていこう、そう思えたのだった。

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