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むかしむかし~本の感想⑫

2002年~2004年ごろに書いていた本の感想

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グロテスク / 桐野夏生 文芸春秋 ¥1900 
佐野眞一の「東電OL殺人事件」(新潮社)はノンフィクション。同じ題材を元にしたと思える「グロテスク」はノンフィクションより真実を伝えていると思う。文学という芸術はノンフィクションという自然を越えるんですね。(あらすじはこちら:Amazon)

絶世の美女ユリ子・不細工なユリ子の姉・不美人で努力家和恵・そこそこ美人で頭脳明晰ミツルの4人の女性が登場人物。物語はユリ子の姉の日記の形で進められるが、後半4人のそれぞれの手記のような物語が語られるにつれて、姉は真実の語り手ではないことがわかってくる。

和恵の人生が痛々しい。プライドが高く尊大な父のファザコンで、しか~し自身は女だから、所詮父の望む姿にはなりえない、だって父は男、和恵は女だから。父の価値観は「努力は成功への道」と信じて疑わなかった戦後の高度成長期のもの、アメリカの薄っぺらい自己実現思想をそのまんまいただいたものだったのだろうけど、その価値観のままに努力を重ねる和恵の姿はこっけいを通りこして、哀れに感じる。

世の中は理不尽、努力で越えられないものもある、というより越えられないものの方が大きい。そのことを理解できない、いや理解することは「負け」になるので、勝利を目指して逆に崩壊していく和恵はすばらしくリアル。皮膚のすぐそばまで和恵の輪郭が近づいているように思える。

また、ユリ子の姉の屈折した性格は、読んでいる間中、私にとっては一番身近に思えたものだった。悪意のこもった策略で人を貶める、こういう欲求が自分の奥底に善人の皮をかぶって潜んでいることを認めるまでは、長く苦しい時間が必要だったなぁ、なんて過ぎた日々を振り返ったりして・・・(^_^;)。

男女平等思想なんて絵に書いたモチ。男女のほかにも差別なんてそこらじゅうにあふれている。美しい人とそうでない人。頭のいい人とそうでない人。黄色人種と白人。金持ちとそうでない人。中年女とギャル。人々のいるところ、すべての関係の中に差別があり、自分はどんな権力(美?金?年齢?etc)を持っているかの引っ張り合いパワーゲームが発生する。

般若心経…四苦八苦の世界に生きているのね、私たち。

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