2002年から2004年ごろに書いていた本の感想
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誰か / 宮部みゆき 実業之日本社 ¥1524
模倣犯とブレイブ・ストーリーで宮部みゆきにはさようならしたつもりだったんだけど、気持ちにゆとりがなくて、でも文字を見ていたいときなんかには、宮部のような物語が軽くていいんだよね。文句言いながら、読んじゃった。
財閥の会長の個人運転手が自転車のひき逃げで亡くなった。その二人の娘が犯人を捜すために父の思い出をつづった本を出版したいと言い出して…。財閥の娘婿で元出版社勤務の三郎にそのおはちが回ってきて、探っていくうちに見えてくる人生模様。
二人の姉妹が、姉は妹を両親の「一番星として愛されていた」とうらみ、妹は、両親が姉ばかりを頼りにするとねたんでいた、そういう育ち方って、きっとどこでもあることなんだろう。秘密を抱えてしまった時、家族ってかなり危険な人間関係になるんだってのも、その通り。その通りだとは思うけど…すらすらと一気に読めてしまう語り口の上手さはもうけなしようもないけど、それでも、前の2作も同じように、ラストというか決着のつけ方になんともやりきれなさしか残らない。人間模様を書いて、切なくなるならそれはそれでいいんだけど、切ないんではないんだよなぁ、読後感が。
宮部って人間が嫌いなんだろうか?もうちょっと、ほんのちょっとでもいいから、明るいきざしみたいなのを残してエンディングになってもらいたいなぁ。
なぞの解決の時、お互いを恨みながら育ってきた姉妹の姉に向かって三郎が言うせりふが引っかかる。ひどい男に二人して騙されて振り回されている姉妹の姉に、父親だったら一番先にその男をぶん殴る、と言っているんだけど、そういうことじゃないんだなぁ。親の愛が欲しくて、親の愛を独占したくて、お互いを傷つけあってる姉妹には、親に愛されているって実感がないんだ。父親らしく、ひどい男をぶん殴っても、そんなことで愛情が伝わる訳じゃない。そんなことが慰めになると思って言ってる三郎がずいぶんと薄っぺらに感じてしまうせりふで、そのせりふが物語の結末を飾るように書かれてるから、全体が薄っぺらい印象になっちゃうのね。同じ家族を描くんでも、重松清のほうが取材が丁寧って感じちゃう。