2002年~2004年ごろに書いていた本の感想
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宮部みゆき ブレイブ・ストーリー(上・下) 角川書店 各¥1800
連載が載っている月刊誌とかを読む習慣がないので、ふらっと立ち寄った書店の平台に好きな作家の新作が積んであって、「あらぁ(^o^)丿」となることがほとんど。そんな、新作が出たら必ず手に入れる作家の1人です、宮部みゆき。
書店で見つけた時は、うれしい驚きとともにその分厚い上下巻に「おやまぁ^_^;」感覚もついてきました。前作の「模倣犯」も上下だったけどそれよりもっと厚い!「火車(かしゃ)」や「理由」の頃からだんだんと1冊が厚くなってきたけど、これはもう限界の厚さじゃん?次の新作はきっと上中下だよ。
前作の「模倣犯」は個人的には好きになれなかった。「理由」や「火車」はまだ犯人に同情の余地があったけど、この模倣犯の犯人には自分の感覚の外側にいる人という思いしかなくて、被害者とか巻き込まれる人たちのことを読んでいくのがつらくなるだけだった。
宮部みゆきの新作が出て、上に書いたように本屋で見つけ、さて買おうかどうしようかと悩んだのは今回がはじめて。前作でちょっと懲りちゃった感を持ってしまったんですね。だから買ってきてもすぐには読み始めないで、本棚にいれて背を眺めながら、しばらくほっといたかなぁ。そしたら朝日新聞に書評が出てしまって、よせばいいのにそれを読んじゃったら、ハリーポッター風うんぬんとあった。ロールプレーイングゲーム風でもあるという。ここでまた、読む気が下がっちゃったなぁ、正直。ゲームなんてやらないし、好きでもないし・・・。
前フリが長くなりました。そんな具合にあんまり期待なく手にしたのですが、読み始めたら一気に読了してしまいました。現世に生きる人間の想像が創りだした幻想の世界で自分の運命を変えようとする男の子の物語。いつもですが、人の心の奥の葛藤や矛盾やもやもやをとても丁寧に語っている。多分中学生くらいの子どもたちにも届くような言葉を使っている。
「書き始めたとき、ハリー・ポッターのことは知らなかった。むしろ、テレビゲームのファンタジーの世界を、小説の方法論で書いたらどうなるかと考えていました。ゲームはするけれど小説は買って読まないという子どもに、小説でもこういうことができるよと、見せたかった(宮部談)」 と新聞にあったが、そういう意図はきちんと反映されている。でもね、私は大人の読者なのでねぇと言いたくなっちゃった。
「最後まで迷ったのは、ワタルが現実の世界で両親の不和に悩む第一部をカットするかどうかでした。本音を言うと、主人公をぎりぎり苦しめずにどんどん冒険させて、軽やかな物語にしたかった。でも、子どもたちを取り巻く現実の厳しい面を見ないわけにはいかないし、ミステリー作家としては、冒険に行く動機づけにこだわらずにはいられなかった」(宮部談・同新聞より)。ハリーポッターでも主人公のハリーに両親はなく、叔母夫妻の家でいじめられいるという設定だったし、それは理解できるんだけど、あの展開じゃ両親と不倫相手のどうしようもなさが伝わらないんじゃないだろうか。宮部みゆきの本が分厚くなるのは、詳細な人物設定を書くからで、だからこそ逆にここでこの大人の人物設定をどうして省くんだろうと。
「父親も勝手な人だし、母親も弱いところのある人。でも、どちらかだけが悪いわけではない。子どもたちに読んでもらうものだからこそ、現実世界では簡単な答えはないということを書きたかった」 といってるそうだけど、父親も不倫相手もさらには母親の心理の動きについてもっと当事者に語らせて欲しかったなぁ。じゃないと、「現実世界では簡単な答えはない」どころか大人の世界への不信感しか残らないのじゃないかと思ってしまう。
父親・母親・不倫相手に、それぞれのうそや建前、社会規範と自分の気持ちが一致しないことからくる心の中の葛藤を語って欲しかった。それも含めて簡単には問題が解決しない「現実社会」とそれでもその中で生きていく勇気を持とうって結んで欲しかったなぁ。